「全然いいのに」

 

 毎朝、障害のある娘の送りをしています。

 以前は学校まで一緒に歩いて行っていたのですが、学校が上がって、最近は送迎バスの停まる場所までの道のりです。娘は足元に気をつけなければならないので、二人でゆっくり歩きます。

 その朝の時間が自分にとっていかに大切な時間であるかは、以前ブログに書きました。




 同じバスにはもう一人、一緒に乗る女の子がいて、お母さんがいつも送りに来られています。長いお話はしませんが、同じの学校の生徒さんですし、会えばご挨拶をしていました。

 バスが来るまでのわずかな時間、その女の子がときどき私の腕を取りに来ることがありました。お友だちのお父さんだから一緒にこっちにいて!、と引っ張っていくという感じでしょうか。全然不思議じゃないですし、痛いわけでもありません。

 でも、お母さんはすごく気にしているようで、「スミマセン、スミマセン」と何度もおっしゃいました。

 私は「全然構いません」「気にしないで下さい」と何度も伝えました。

 私の腕を引っ張るくらいなんでもないことですし、むしろ親しみをもってくれているのだなとうれしいくらいです。


 「全然いいのに」


 障害をもつ子どもの親同士なのだからわからないはずがない。

 気にしないで、リラックスして、一緒にバスを待っていましょう。そう思っていました。


 でも、ある朝、私と娘がバスを待っていると、その女の子とお母さんが少し離れた脇道の陰に入っていくのが見えました。つまりこちらが見えない位置で待っていて、(女の子が私の手を引っ張らないように)私の娘がバスに乗ってから、脇道から出てきて、さっとバスに乗るという方法を取られるようになったのです。




 「全然いいのに」

 かえってその女の子とお母さんに気を使わせてしまったみたいで、申し訳なく思いました。

 せめて障害を持つ子どもの家族同士、そのあたりのことは気兼ねなくやりとりできたらと思いました。

 でも、その後、妻に言われたのは、「たしかにそうなんだけど、○○ちゃんのパパだけ腕を掴んでもいい、というわけにもいかないものね」という言葉でした。


 そうなんですね。私はよくても、他の場面でかえって私の対応がマイナスに働くことがあるかもしれない。

 どうしても他者に迷惑をかけてはいけないということに過剰に意識が向いてしまうのです。

 とてもよくわかります。


 うちの子も、身体が小さいから大人の腕を掴むということはないにしても、親以外の人の手を握ろうとしたり、赤ちゃんを見かけると「よしよし」をしようとしたりしますもの。

 難しいものです。


 全然いいのに。同じ親だからわかるのに。なんだかせつない。

 こういった些細な心の揺れも、障害児をもつ親に共通する悩みの一つだと思います。


Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

0コメント

  • 1000 / 1000