ちょっと怒られそうな自慢話

 

 私には、「言うとちょっと怒られそうな自慢話」というものがあります。


 じゃあ、言わなければいいのですが、こういう「お話」というのは、言いたくなるものなんですね(笑)。もっと皆に感心してもらえるような普通の自慢話があればいいのですが、逆にそういったものがないのが私の情けないところです…。


 そのお話は、端的に言うと「ある二人の先生と写真を撮ったことがある」というものです。

   お二人の先生はとても有名な先生なので、ちょっとした自慢というわけです。


 有名人と一緒に写った写真というのは、自慢話としてはありがちで(いやむしろ、場合によっては大事なエピソードとして)しばしば学会の広報誌等で見かけるほどですが、私の場合何が怒られそうかと言うと、その有名人(お二人の先生)と「肩を組んで」写真を撮った、ということなのです。





 おひとりは、私が大学から大学院にかけて実際に指導を受けた村瀬孝雄先生です。

 と言っても、先生の授業を受けている数多くの学生の一人というだけで、名前くらいは覚えてくださっていたと思いますが、逆に言うと、その程度の学生であったと思います。

 昔、先生のある授業で懇親会的な飲み会が開かれたことがありまして、その会の終わりに、全体で写真を取りましょうとなりました。その時に、「先生、すみません!」(何がすみませんかわかりませんが(苦笑))と言って、強引に先生と肩を組んで写真を撮らせてもらったのです。

 村瀬先生は紳士というイメージそのものの先生で、お酒を飲んで赤くなったお顔で、「ちょっと君ー」と苦笑しながらも、許してくださいました。


 お店の前で、多くの学生たちの中心に、私に肩を組まれた(笑)村瀬先生が写っています。



 

 もうおひとりは、河合隼雄先生です。

 以前鳥取県の米子で定期的に臨床心理学を学ぶ初心の大学院生向けの宿泊型研修会が開かれている時期がありました。ある年に、その研修会の講師として河合先生が来てくださった時がありました。当時私はもちろん河合隼雄先生と直接の面識などあるわけもなく、ただ「有名な先生が来られている」「そのお話を聞くことができた」という喜びだけでした。


 宿泊型の研修ですから、夜はざっくばらんな飲み会になり、どなたかの部屋で車座になって、交流会的におしゃべりをしたり、お酒を飲んだりしていました。そこへ河合隼雄先生もいらっしゃってくださって、われわれの輪の中に入って一緒にお話をしてくださいました。それだけで、いかに気さくな先生かがわかります。


 私は、当時一緒に行っていた後輩にカメラを渡し、「今から河合先生と肩を組むから写真を撮ってくれ」と頼み、しばらくしていきなり「先生、すみません!」(これも何がすみませんかまったくわかりませんが(苦笑))と言うなり肩を組むと、先生は酔っ払った学生ということをすぐに理解してくださって、にこやかに写真に写ってくれました。


 あぐらをかいた河合先生と、肩を組んでもらって喜んでいる私、それから困惑気味にそれを見ている周囲の人が写っています(笑)。



 ある意味でのどかな時代だったのでしょうか。

 

 両先生には大変失礼な振る舞いで、今となっては穴があったら入りたいような気持ちですが、そうやって一緒に写真に写ってくださったという思い出は、心理療法の大家を私に身近に感じさせてくれ、その後、心理療法の道に本格的に入っていった私のちょっとした支えになってくれました。




 臨床心理学の領域で言えば、「東の村瀬先生 西の河合先生」といわれるほどの大先生で、本当に見上げるのもはばかられるような存在でしたが、私は単なる無知で傲慢な若者でしたから、当時、「心理療法家とはいかなるものか」、「大学の先生何ほどのものか」と、挑むような態度で有名な先生方を品定めするように見ていました(それがひねくれた形になって、一緒に写真を撮ってもらうような行動になったのだから、幼稚です(笑))。


 村瀬先生が亡くなった時に河合先生が書かれていた追悼文を読んだ時に、お二人が(東西に離れて、直接の関わりはあまりなかったにもかかわらず)互いに意識しながら、わが国の心理療法のレベルを上げようと、必死にその黎明期を牽引してこられた様子を知ることができました。その時、すでにこの道に本格的に入り始めた自分は、以前の失礼な振る舞いを恥じ入ると同時に、だからこそ自分は二人の先生の意志を継いで頑張らないといけないのだと、柄にもなく使命感に燃えたのでした。



「東西の巨頭 村瀬孝雄先生と河合隼雄先生と肩を組んで写真をとったことがある」

  というのは、日本広しといえども(世界的にも)自分だけではないか。

  それが私の密かな自慢です。


 そして、このお話をするともう怒られそうな気がしてきましたので(苦笑)、あわてて言い訳すると、両先生の器の大きさを思い知ったという話として許していただきたいのです。





 両先生が、ほとんど見も知らぬ酔っ払いの無知な若者を許してくださったおかげで、いまの自分があるのです。


 河合先生と肩を組んで撮ってもらった写真は、<引き伸ばして、額縁に入れて>、今も私の研究室に飾られています。


 それを見ながら、日々精進しています。



Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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