今書いている本について


 最近ある本に取り組んでいます。

 と言っても、原稿自体は(あいかわらず年単位で時間がかかってしまいましたが)なんとか書き上がって、あとは手直しというところです。


 今回の本は学校臨床という領域を多くの人に知ってもらうことを目的に書きました。幸い私は、これまで公立教育相談室の相談員や中学校のスクールカウンセラーとして、また高等専門学校や大学の相談室などで仕事をしてきましたので、初めて自分の専門に近いところで書けるありがたさがありました。一方で、特定の領域をテーマにしたために、これまでのように自由に話題を広げたり、抽象度の高いお話はできない難しさもありました。

 そこで、この本ではむしろ専門用語を控え、できるだけ具体的な場面で伝えることができるよう気をつけました。例えば、スクールカウンセラーが作成するお便りの例やスクールカウンセラーが給食に参加させてもらうときにどのあたりを見ているかや、さらに学校の先生方がスクールカウンセラーを上手に使ってもらうための工夫などを詳しく論じました。


 書き慣れた内容や書き慣れた文体でなく、書いたことのないテーマや書いたことのない文体で書く方が(苦しくても)やはり楽しいものです。


 特に新しいチャレンジとなったのは、その文体でした。

 今回の本は知り合いの編集者の方が声をかけてくださいました。最初に提案されたのは、「スクールカウンセラーのような仕事は知られているようで実はきちんと知られていないのではないか。多くの人に知っていただく必要があるように思う。ついては学校臨床について専門書と物語の間のようなものを書いてみないか。」というものでした。


 「専門書と物語の間のようなもの?」


 私は、専門書のようなものはわずかに書いたことがありますが、当然物語は書いたことがありませんし、どのように書けばよいかもわかりませんでした。そこでその編集者の方は、子ども、教師、カウンセラーという3人の「ガイド役」を立てて物語を進めてみてはという提案をしてくれました。

 一人称の物語でさえ難しいのに、複数の人物が登場する、物語と専門書の間のようなもの…。

 これが実際どんな文体で、どんな構成で書けるのか、ずいぶん長く手探りの時間が必要でした。


 悪戦苦闘し、結果かなり変わった書き振りになりましたが、なんとか書いたものが今回の本になります。

 面白いもので、むしろ今回チャレンジした文体と書き振りによってこれまで伝えづらかった学校臨床の姿が伝えられるようになった気がします。

 どんな書き振りになったか、ぜひそれだけでも読んでみていただきたいと思います…(笑)。


 まだ出来上がるまではいろいろなハードルがあると思いますがー。


 できるだけ多くの人に、例えばスクールカウンセラーが学校の中でどのようなことに注目し、どのようなことを大切に言葉かけを選び、どのようなことを課題と感じているかを知ってもらい、そこから学校臨床のもつ可能性を感じてもらえるものになればと思っています。

Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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