忘れられない光景(2)

 ブログでは、(ブログの主たるテーマからは外れますが)自分の心に引っかかった日々のささやかな出来事についても書き留めています。


 先日、仕事で新幹線に乗る必要があり、ホームで待っていました。


 新幹線が入線するアナウンスがあって、人が列を作って並び始めた時、そこへ赤ちゃん連れの若いお父さんとお母さんがおとずれました。


 赤ちゃんはベビーカーに乗っていました。

 じっと見るつもりはなかったのですが、何気なく赤ちゃんに目が行きました。

 赤ちゃんはまだとても小さくて、鼻に細いチューブを入れて、その先をほっぺたのところにテープで留めてありました。


 以前のブログでも書きましたが、それは経鼻チューブで、(病気や小さく生まれたことなどの理由で)まだ口から十分にミルクや食事がとれない子どものために、直接そのチューブを通して胃までミルクを入れるためのものです。とても細くて目立たないように留めてあるので、ご存じない方は、ぱっと見ただけでは何かわからないと思います。私は、上の子が長くその経鼻チューブを入れていたので、少し目に入っただけで、それと理解することができました。




 

   それはそれとしてー

 この出来事で、私が書きたかったのは、その若いお父さんとお母さんの様子です。


 新幹線が到着するまでのわずかな時間も、そのお父さんとお母さんは、小さな赤ちゃんを愛おしそうに眺め、二人の間に特に会話はないものの、うれしそうにスマホで何枚も赤ちゃんの写真を撮っていました。

 ベビーカーにはたくさんの荷物がぶら下がっていました。きっとあの中は、ミルクやシリンジ(ミルクを注入する注射器のようなもの)や除菌のための個包装のコットンなんかが入っていたのだろうと思います。


 私は、自分の経験から言って、経鼻チューブを入れた状態で遠出をすることはものすごく緊張し、不安なことだと理解しています。口から食べられないということは、ミルクのあげ方や時間に大変制限を受けますし、おそらく子どもの体もいろいろな意味で弱く、非常に気を遣う状態なはずだからです。

 また、率直に言って、鼻にチューブが入っていることで、周囲の人から奇異な目で見られたり、心ない言葉をかけられることもあるので、そのようなことについても警戒しているはずです。


 きっと子どものことでとても大きな不安を、この若い二人の夫婦も抱えていることだろう。


 そう思っていました。




 ただ、私が見たのは、そのような不安な様子ではなく、とにかく子どもを愛おしいと思っている普通の若いお父さんとお母さんの姿でした。


 新幹線を待つ間も惜しんで、子どもの写真を撮る。今の心配や将来の不安などよりも、ただ目の前の子どもがかわいくて仕方がないという気持ち。

    今この時に、ちゃんと子どもにピントが合っている様子が伝わってきました。


   当時の自分は、この若い夫婦のようにできていただろうか。きっと、できていなかっただろうと思います。


 私は胸が締めつけられるような気持ちになりました。

(かわいいですね。うちの子どもも小さいころチューブを入れてました。時間がかかったけど取れます。心配ないですよ。)と声をかけたかった。でも、できませんでした。


 出来事としてはそれだけのことです。


 赤ちゃんは、いいお父さんとお母さんのところに生まれたきたなあ、と思いました。


Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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