日本心理臨床学会参加記(2017年11月)


 日本心理臨床学会第36回大会に参加しました。


 この学会は、心理療法に関するわが国最大の学会であり、これから臨床心理士資格に加え公認心理師資格が出来上がるにつれ、さらに大きな重みをもつ学会となると思います。


 今年の学会は、私には、過渡期にありがちなある種のざわめきのようなものが感じられました。



 

 一般に、学会というのは研究発表の場であると同時に、交流の場でありまして、学会となると研究者同士が集まって意見交換したり、飲んだり…。


 私もご多聞に漏れず(笑)。


 自分には研究者仲間と呼べる知人はほとんどいないので、いつも学会では同じ領域で働いている昔からの仲間と飲んでいるだけです。

 しかし、皆、現場の経験が豊富で、意見が鋭く、自分には畏友というべき存在です。



 学会に参加することは、われわれにとっては、特別な意味のある行為だと言えます。

 

 心理療法という営みは、それを行う「私」という条件が大きなポイントになります。言い換えれば、「個別性」ということが、良くも悪くも心理療法の鍵となっています。したがって、学会において最新の知見を得るだけでなく、常に自分とは異なる考え方に触れることが必要になってくるのです。


 心理療法には、「これはよくないな」というものはあっても、逆の「正解」というものはありません。一回きりの、私とあなたの出会いの場ですから、科学のように再現して「正解・不正解」を確かめることもできません。

 それ自体は決してマイナスではありません。それが心理療法を心理療法たらしめている特徴と言ってもよいでしょう。しかし、ともすると、得手勝手なやり方を続けたり、クライエントにとってベターな方法を見逃したりする危険があります。ですから、事例研究を発表して他者の意見を求めたり、他者のケースへの取り組みを聞くことは、この上もなく重要なことなのです。

 「私」からは離れられませんが、異なる考えに触れながら「私」について深く自省する態度が求められるのです。


 心理療法をおこなう者に「研究」的態度が求められるゆえんです。


 今回の学会でも、いろいろな研究発表に参加し、納得したり、首をかしげたりしました(笑)。それでいいのだと思います。学会は学校と違って正解を教わる場ではありません。「新しい知見」「自分と違う考え」にとにかく触れていることが大事なのだと思います。

 




 個人的なことで恐縮ですが、今年、日本心理臨床学会奨励賞をいたいだたことで、今回の学会では受賞講演をおこなってきました。


 最後に、そのことの感想を書き留めておきたいと思います。


 講演では、「見る」意識と「眺める」意識というテーマでお話しさせていただきました。

 中身については、まだ拙いところもあり、機会があればあらためて整理してご紹介させていただくとして…


 とても好意的に受け止めていただいたように思います。

 これは私の発表では珍しいことです(笑)。

 司会の滝川一廣先生とフロアからコメントいただいた松田真理子先生に助けていただいた面が大きかったと思います。


 取り立てて上手くは話せませんでしたし、むしろつっかえつっかえで、ぎこちないものでしたが、話し終わったあと、現場で臨床に取り組んでおられる多くの方々に感想をいただききました。ありがたいことです。

 私がやってきたような臨床・研究のスタイルに興味関心をもってくださる方がいることに、かえってこちらが勇気をいただいたような気持ちがしました。


 学生相談をされている方、警察にお勤めの方、事前に美術館で北斎の絵を見てから来た方(話の中で浮世絵を少し提示したので、その偶然に感激して話しに来てくださいました)、大学院生の方、など。皆さん、初めてお会いする方で、私のように顔の狭い人間にはとてもうれしい体験でした。後であらためてメールで感想をくれた方もいらっしゃいました。


 それから、個人的にすごくうれしかったのは(いやむしろ恥ずかしかったのですが)、友人やかつての同僚、関わった元大学院生、現大学院生なども聞きに来てくれていたことでした。

 皆不思議なほど「上田らしい話だった」「上田そのものだった」と言ってくれました。(雰囲気としては、しょがないなあーというのが半分くらい感じられるので(笑)、あまり喜ぶようなことではないのかもしれませんが…)自分として何よりうれしい感想でした。



 

 怖いのは、賞をいただいたことで、自分の足が止まってしまうことです。自分のやり方が変わってしまうことです。それでは台無しになってしまいます。


 賞をいただいたことは今日で忘れて、臨床と研究を地道に続けていきたいと思います。


Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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