なかなかできないこと


 私の住んでいる駅の駅前には大きな交差点があります。

   その日も、朝、仕事に向かう前にその交差点にたどり着きました。


 駅前の交差点ですから、人通りは多い。交差点の手前で私は信号が青になるのをぼんやりと待っていました。


 交差点の反対側から、体格のいい、黒のTシャツと黒のズボンを着た若い男性が向かってきました。交差点の手前で同じように立ち止まり、暑かったのか少しマスクをずらした瞬間、ひげをはやしていてなかなか強面な(笑)顔が見えました。


 しばらくして、瞬間、前にかがんだのです。僕は向かいから見ていて「?」と思いました。すると彼は、そこに落ちていた(たぶんコーヒー牛乳の)紙パックのゴミを拾ったのです。そして、またあたりを見渡して、すぐ後ろの自販機の前に同じような紙パックのゴミが落ちているのを見つけて、それも拾ったのです。

 中から液体がこぼれたため手を振っていましたが、それも特に気にしないそぶりで。きっと職場まで持って行って、捨ててくれようとしていたのだと思います。




 誰にほめられるでもないことです。

 むしろ他の人の目を気にしたり、汚いと感じたりして、「なかなかできないこと」だと思います。


 その真っ黒なTシャツを着た強面の男性の中にある清らかなものを見ました。




 信号が青になって、お互いに渡り始めて、私はできるならば彼に近づいて、「見ていましたよ。ありがとう」と声をかけたかった(強面だったので、ちょっとできなかったんですが(苦笑))。


 自分に彼と同じことができるだろうか。率直に難しいと思いました。


 「なかなかできないこと」ができる人間になりたい。そう思います。


Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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