「中空構造論」理解のための一試論


 『ルパン三世』で、よく五右衛門が「またつまらぬものを切ってしまった...」とつぶやくシーンがありますが、あれに近い感じでしょうか。

 「またなんだか変な論文を書いてしまった」。


 この論文に限らず、自分では大事なテーマについて真面目に書いているつもりなのですが、いつも周囲からは「変わった論文ですね」と言われます。ときどき「意味がない」とか「ふざけている」と言われることもあります。

 もちろん面白いと言ってくれる人もいるのですが、ちょっと自信をなくすところもあります(苦笑)。




 さて、それはともかく。

 河合隼雄先生の「中空構造論」は、この領域で研究、実践している者であれば多くの人が知っていると思います。河合先生が立ち上げた理論の中でも突出してユニークで重要なものでありました。


『中空構造日本の深層』(河合隼雄, 1999年.  中公文庫)

(こちらの本が有名でしょうか。もしまだお読みになっていない方がいたら、ぜひ読んでみることをお勧めします。)


 わが国の神話においてもっとも重要な神はアマテラス(天照大神)ですが、面白いのはアマテラスがギリシア神話のゼウスのようにピラミッドの頂点として唯一絶対的な力をもっているのではなく、その弟のスサノオ(須佐之男命)も相当に重要な神として描かれていることです。むしろこの二柱の抗争によってストーリーが進んでいくと言ってもよいところがあります。

 ところで、この対照的な二柱の間にはツクヨミ(月読神)という兄弟神が存在しており、本来は三柱で構成されているのですが、ツクヨミは古事記神話においてその行為がほとんど語られていません。河合先生はこの(ほとんど語られない)ツクヨミの存在が実は重要であり、二柱の間に「無為の中心」が存在するトライアッドとしてバランスが保たれていることを見い出しました。

 この種の構造はわが国の神話において繰り返し現れています。最も原初の神であるタカミムスヒとカミムスヒの場合も、その名前から見て天の中心と考えられるアメノミナカヌシが間に存在しますが、不思議なことにこの神は古事記のみならず、日本神話のいずこにおいても語られません。


 河合先生は日本神話のこのような特徴を「中空構造」と呼び、わが国のコスモロジーを貫くものであると指摘しました。すなわち、中心に強力な存在があって、その力や原理によって全体を統合するのではなく、中心を空にしても、つねに均衡をとろうとする構造のことです。


 河合先生の中空構造論は、(例えば象徴天皇制のような)わが国の社会構造や(西洋的な自我の確立が難しいと言われる)日本人の心理的特徴を考えるうえで有用なフレームとして広く注目を集めました。しかし、その後に続く具体的な研究は非常に少ない。大変不思議で、残念に思っていました。

 むしろ、現代人の抱えるうつや解離などの精神病理学的理解、世界各地で見られる対立や分断の問題など、まさに今という現代にこそ必要な視点なのではないだろうかと思うほどです。


 と、ここまでは中空構造論という重要な理論に対し、いかに迫れるか、新しく語り直せるかということなのですが、私はここで木戸孝允に注目してしまったのでした。

 もともと私自身が山口県出身ということもあって木戸孝允は遠い存在ではなかったのですが、ひょんなことから調べ始め、そして調べていくうちに(ああ、これは河合先生の中空構造論を考えるとよくわかるなあ)と思ったのでした。

 木戸孝允という人物と明治維新という時代を題材にすることで、中空構造論をもう一段深く理解できるのではないかと思ったのです。


 何を言っているかよくわかりませんね。

 やはり「変な論文」ということでしょうか(苦笑)。


 もし関心のおありの方がいらしたら、下記からお読みいただけるとうれしいです。


Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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