困ったブーム



 子育てというのは、我を忘れるほど楽しい気持ちと逃げ出したくなるほど苦しい気持ちを両方味あわせてくれるものですが(河合先生は「たのしい」と「くるしい」が同時にあるから「たのくるしい」だとよく言っていました)、障がいをもつ子どもの子育ては、この振れ幅が健康な子どもを育てるときよりも大きいのかもしれません。


 わが家は長女が障がいをもち、また大きな病気をしたので、言ってしまえば「生きているだけですべてOK。そこにいるだけで幸せ」となってしまっています。すなわち原点がものすごく下にあるために、何かちょっといいことがあるともう、すぐ幸せということになりがちです。


 それはよしとしまして、今日はちょっと「たのくるしい」の「くるしい」方のお話です(苦笑)。




 

 子育ての中で、言うことを聞かないとか、行儀が悪いとか、うるさいとか(笑)、そういった困ったこともあるわけですが、親として苦しいのは、「やめさせたいけどやめない癖」のようなものがあるときではないでしょうか。例えば、爪噛みとか歯ぎしりのような癖がある場合、これは親としても心配ですし、子どももなかなかやめることができない、またやめさせようにも親としてどうしたらよいかもわからないといったつらさは本当に苦しいものです。

 障がいをもつ子どもの場合、その癖というか行動がより深刻で、場合によっては怪我などにもつながるため、皆さん苦労していると思います。


 これをわが家では(突然出現して、またいつの間か終わっているという意味で)「困ったブーム」と呼んでいます。





 これまで長女にどのような「困ったブーム」があったかと言うと、


・すぐにトイレに入ってしまう(半分くらいおふざけ)

・髪の毛や服の襟を口に入れる

・身体をかきむしる

・どこでもバンバン叩く

・飲み物をわざとこぼす


といったものがありました。


 最近のブームは、とにかく横になっている人を見かけると「起きて〜」としつこく言い続けるというものです。こう書くとなんだか笑い話みたいですが、実際はけっこう大変で、とにかく寝ていなくても、横になっている人を見るだけで、延々と「起きて〜」「起きて〜」と言い続けるので、かなり堪えるのです。

(自分は夜中目覚めて、こちらが夜中付き合っているときは「起きて〜」で、明け方自分だけ寝るんですから・・・(涙))


 そして、一番困ったブームが、「口に手を突っ込んで吐きそうになること」でした。


 いつ始まって、いつ終わったのか、今となっては判然としませんが、これが始まったときは本当に苦しかったことを覚えています。本人もやりたくてやっているわけではなさそうでしたが、注意するとその反動でまた口に手を突っ込んでしまい、それで吐きそうになってしまう。かと言って注意しないわけにもいかない。運転中などは、何度も事故を起こしそうになりました。本人もすごく苦しそうでした。毎日がその癖との格闘でした。


 これはもう永遠に終わらなんじゃないか、という気がして、気が狂いそうになりました。


 結局、大きな空のペットボトルで肘が曲がらないようにする筒のようなものを作って、腕にはめるということをせざるをえないこともありました。

 ただある日、「あれ、最近しなくなっているな」とふと気がつきました。いつの間にか、そのブームは終わっていたのです。今思い出しても恐ろしいです。これまでの困った行動の中でももっともつらいものでした。




 

 うるさいのは、我慢できるんです。

 眠いのも、まだ大丈夫です。

 でも、子ども自身が苦しそうになる行動は耐えがたいものがあります。


 その後も、いろいろと心配な行動や困ったブームはありますが、妻とともに「あれに比べたらまだいいよね」「いつか収まるはずだよね」と言いながらがんばっています。


 試されているのかもしれません。

 でも、ないならない方がいいです。本当に。


 妻曰く「天国を感じさせるのもあの子、地獄を感じさせるのもあの子」と。

 たしかにそういうものかもしれません。

Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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