賀茂川とイヴァンリンス
初夏になると思い出す風景があります。
もうずいぶん昔のような気がしますが、長女が障害を抱えて生まれてきたのが10月で、そのまま入院している病院のNICUに毎日通う日々が始まりました。そして季節は寒い冬から春、初夏になりました。
当時、僕は京都の北の方に住んでいて、仕事がある日は職場からバスで病院まで行くのですが、休みの日は車で病院に通いました。自宅から、エアコンの効きの悪い中古車に乗って病院に行くのですが、途中賀茂川べりの道を下っていきます。賀茂川上流の道は土手の上の信号もない片側一車線の車道で、道路沿いには緑の濃い桜の木々のほかに視界を遮るものはなく、川とその背景を山が取り囲んでいます。当時、僕はなぜかブラジル音楽のイヴァンリンスにはまっていて、車の中で繰り返し彼の曲をかけていました。
この時期の晴れた京都の川沿いの道路は、もうえも言われぬ美しさです。イヴァンリンスの曲もそれによく合いました(そのような気がしました笑)。一方で、これから自分はNICUにずっと入院している病気の重い子どもの面会に行くのだという、持ち上げようのない気持ちも抱えていました。
そのあまりにアンバランスで、ちぐはぐな状況を含め、とにかくそのときの風景と音楽がまぶたと耳に焼き付いて離れません。今でもありありと思い出します。
京都に暮らしたのは3年ほどでしたが、自分には混乱させられるほどの魅力と苦しさのある町と時期でした。
そんな娘も今は特別支援学校の高校生になりました。ありがたいことです。
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