好きなテレビ番組


 コロナ禍で家で過ごすことが多くなると、増えることがあります。テレビを観ることが増えました。お酒を飲むことが増えました。と言うより、テレビを観ながらお酒を飲むということが増えました(笑)。


 僕は基本的にテレビ番組は何でも観るのですが、見終わった後にいい番組だなあと思うものがあって、考えてみるとNHKのものが多いんですね。若い頃はNHKの番組は刺激が少ないと感じていたのですが、歳をとってNHKの番組を好むようになったようです。

 NHKさんもいろいろと課題を抱えているようですか、それはひとまずおいておいて。


 最近いいなあと思った番組をいくつか。




1)ドキュメント72時間

 これは好きな方が多い番組じゃないかなと思います。

 ある場所を定めて、そこに72時間スタッフをおいて、訪れる人に話を聞いていくというだけのものです。いわばささいな生活の一場面のインタビューなのですが、少し聞いていくと、なぜ今日買い物に来たのかとか、どうしてそのお店に通っているのかとか、今家族の状態がこうで、昔はこうで、という思いも寄らないエピソードや深いドラマがそこにあらわてくるところがすばらしい。


 場所は(例えば、町のお弁当さんのような)ごくありふれた日常の、生活場面が多いのですが、それがゆえに、どんな人にも、それぞれの(ちょっとつらい)出来事があり、またつらい中でも感じられる幸せがあり、使い古された表現で恐縮ですが、皆その人の物語を生きているのだなということがわかります。


 僕はどうしても人の話を聞くということを仕事にしている関係で、そういったインタビューの妙というものに注目してしまうのですが、ただ人の話を聞くだけでこれだけ心を動かされるものなんだなということに毎回あらためて目を拓かれる思いがします。


 おそらくこの番組を見ている人にはそれぞれ好きな回があると思います。いわゆる「神回」というものですね。


 僕の場合は「阿蘇・ライダーたちの夏」かな。

 バイク乗りの人たちが10年に一度(!)阿蘇に集まってただ写真をとるというイベントがあって、そこで話を聞いた回です。ある男性のお話で、お子さんの一人が白血病にかかって大変だったんだけど、なんとか治って、今は大きくなって少し手が離れたからこのイベントに参加したのだという方がいらっしゃいました。朴訥とした語り方でしたが、その人の短いお話とスマホの子どもの写真を見せてくれる部分があって、きっと病気が良くなるまでは大変だったろうと涙が出ました。


 他にも、しまなみ海道のサイクリングロードで72時間とか、井の頭公園の池のほとりで72時間とかもあれば、歌舞伎町の閉店するキャバレーで72時間とか、北海道の小さな宝くじ売り場で72時間とか、公団住宅の中のクリーニング店で72時間とか。よくそんな面白いところ見つけてくるなあと…。

 ちょうど前回は、福島県浪江町のお弁当屋さんで72時間、そこに訪れる人のお話を聞いていました。よい回でした。


 エンディングの歌も素敵です。



2)ブラタモリ

 最初「何だろうこの番組は?」と思って観ていたのですが、引き込まれました。タモリさんが日本(海外の場合もありましたけれど)のある地方に行って、その地方の成り立ちや独自性を、それこそブラブラ歩きながら解き明かしていくというものです。


 ゆかりのある町が出ると興奮します(笑)。


 「ブラタモリ」は、よく他の番組で見かける「街ブラ」ではなくて、地層を見たり、暗渠(川の痕)を探ったり、言うならば「地形ブラ」といった感じ。タモリさんの博識に驚かされます。もともと地図が好きで、地質や地形にも興味があったそうですが、解説のため同行する大学の研究者などがタジタジとするくらいの博識ぶりです。特にタモリさんは「石」に詳しく、そこにある石を見て、「これは〇〇石で、昔ここで火山活動があって、ここにこういう地形ができて、それで人が集まってきたんだ」とか、そんな感じで解き明かしていかれます。

 私も「石」が好きなので(好きすぎて、心理学なのに石で論文を書いたりしましたが(笑))、タモリさんの石への愛に共感します。


 それはそれとして、困ったことに、「ブラタモリ」は先の「ドキュメント72時間」と比べて「何が面白いのか」ということが上手く表現できないんですね。面白いのですが、特別地質学に興味があるわけでもなし、派手な演出があるわけでもなし。


 たぶん、小さい頃理科や社会で習ったような知識が自然とそこに生かされている、いわば「素朴な教養」といったようなものが心地よいということなんでしょうか。押しつけがましくないというか。


 書きながら思ったのは、最近のテレビや映像コンテンツはとかく押しつけがましいものが多いなということです。特にYouTubeのように再生回数を稼がないといけないものには顕著に感じられます。どぎついサムネイルや大声や過度な笑い声、ハウツーの列挙や経過を飛ばして要点だけ紹介するものばかり目に入ってくるような気がします。「ブラタモリ」はそういった押しつけがましさへの反動を満たしてくれる番組のように思います。


 最後は少し愚痴になってしまいました。



3)浦沢直樹の「漫勉neo」

 これも感心することの多い番組です。

 今、コロナで中断してしまっているのかなあ。また再開してくれないかなあと楽しみにしている番組です。


 この番組は、ある有名漫画家に2日くらい密着して、作業場に(邪魔にならないように)定点カメラを置いて、その映像を見ながら、対談するというものです(その意味では、ドキュメント72時間に近いですね。それ系が好きなのかも(笑))。


 主に技術的な面からマンガの描き方について話しているわけですが、無類に面白い。もちろん僕はマンガが好きではあるものの、特別詳しいわけでもありませんし、たくさん読んでいるわけでもありません。それでも十分その対話を楽しめます。


 要するにプロフェッショナルとしての仕事への向き合い方が語られているんですね。


 これは、聞き手としての浦沢直樹さんの力なのですが、特に対談のための予習がよくなされているように思います。しっかり相手のマンガを読み込んで、本質的なところをとらえて、質問し、対話している。何より相手のマンガや描き方へのリスペクトがある。浦沢さん自身大変優れた漫画家ですけれど、インタビュアーとして一流の方とお見受けました。


 僕にとっての「神回」は、ちばてつやさんの回でしょうか。機会があったらぜひ観ていただきたいと思います。



4)「NHK杯テレビ将棋トーナメント」

 最後はやっぱりこれでしょう(笑)。

 「日曜日の朝のひととき、NHK将棋トーナメントでお楽しみ下さい」って、ほんとこちらこそ毎回ありがとうございます。


 これはさすがに将棋が好きな方以外にはお勧めしにくい番組ですけれど、よいです。

 ベテラン棋士がバリバリの若手に勝ったりすると、最高ですね(笑)。


 この番組は、棋士が指している場面だけを編集して放映しているわけではなくて、むしろ指さない時間も含めて(ほぼ全体を)放映しています。その間(ときどきシーンとなりながら)解説者の解説を聞いてるというわけです。それでも面白いです。


 将棋については、指し手だけが問題であれば指している瞬間をつないで放送すればよいように思えます。また勝ち負けだけが問題ならば単に情報ですから調べたらお終いですが、われわれは棋譜や勝ち負けだけを問題にしていないのですね。だから、羽生善治さんも言っていましたが、チェスや将棋や碁においてAIに人が負けるようになっても、将棋が廃れるわけではないのです。将棋というのは、(言葉は交わしませんが)間違いなく一種の「会話」ですから、そのやり取りを逃さず観ているというのが面白いのだと思います。




 好きなテレビ番組についてつらつらと書いてきましたが、私がテレビに求めているのは、どうも「情報」ではないようです。


 人と人との細やかなやり取りを丁寧に見せてくれる番組がこれからも増えるといいなあと思います。



Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

0コメント

  • 1000 / 1000