臨床心理学で博士論文を書くということ(その5)


「臨床心理学で博士論文を書くということ」について続けて書いています。


 前回は、いかに足を止めずに書き続けるかということについて、コツのようなことをまとめました。


 書き続けるモチベーションを維持するために「自分をよく知る誰かに読んでもらうことをイメージし続ける」ということも有効であったように思います。

 私にとっては、恩師と主査の先生に読んでもらいたいこと、それから自分に影響を与えてくれた何人かの先生の目にとまるとうれしいなと想像したこと(もちろん実際には読んでもらえるかわからないわけですが)、あとは何より大学時代の友人です。その友人たちに「お前らしい論文だよ。」と言ってもらえたらうれしいな、と。そういう思いが、長く書き続けるモチベーションになっていました。


 そうやって、自分の大切な人に読んでもらうことをイメージしていると、なんとか足を止めないで書き終えることができました。



 

 さて、今回は「書き終えてから」のことを少し思い出してみたいと思います。


1)印刷製本

 私が博士論文を提出した大学は、自分で製本したものを提出しなければなりませんでした。

 いろんなやり方があるのだと思いますが、私はKinkosを利用しました。原稿を自分で一旦きれいな用紙に印刷し、それを持ち込んで製本してもらいました。

 自分で背表紙の形や題目の字の色とかを決めたのですが、こういったことも初めての体験で面白いものでした。提出分とお世話になった先生分と自分用とで何冊か製本しました。


 できあがったものを手にしたときに、「ああ、本当に書いたんだな。えらい時間がかかったなあ…。」としみじみ思いました。やはり現物を手にするのは大きいですね。


2)口頭試問

 続いて。博士論文は提出すれば終わりではなく、必ず発表会や口頭試問があります。

 大学によって違いがありますが、主査の先生1名に副査の先生2名(うち学外から1名)という形が多いのではないかと思います。


 口頭試問に入る前に、外国語の試験があるところもあります。一つは英語ですが、私は英語論文を書いていたので、ここの部分は免除されました。

 さらに、私の提出した大学では、第二外国語(フランス語)の簡単な試験までありました。こちらはもうまったく忘れていたのですが、出題範囲をしぼっていただいていたので、なんとか対応することができました。


 その後、メインの口頭試問になります。学内外の著名な専門家にわざわざ時間をとってもらって審査をしていただくわけですから、これには緊張、恐縮しました。


 実際はスライドを作って論文の内容を説明し、質問・コメントを受け、応答するというものです。

 博士論文は普通の論文何本分ものボリュームがあるものですから、限られた時間で上手くプレゼンテーションをしなければなりません。テーマはともかく、切り口がニッチな論文でしたので、上手く伝えられるだろうか、主査以外の先生にどのように受け止めてもらえるだろうかという不安はありました。しかし、勉強になるコメントもいただくことができ、自分の次の研究へとつながる有意義な時間でした。

 後で主査の先生に聞くと、学外の先生もとても面白がっていたよと言われ、ほっとしたことを覚えています。


 実は、論文を書く前に「構想発表会」的なものがあって、(臨床心理学に限らず)すべての心理学科教員が参加して、私の研究が博士論文執筆に値するかどうか議論されたのですが、こちらの方がよほどきつかったです(苦笑)。

 構想発表会に比べ、博士論文提出後の口頭試問は、近い領域の先生が3名だけ、しかもしっかり論文を読んで下さっての後なので、論点もしぼられて、また私の方も答えを準備しやすかったので、それほど苦にはならなかった記憶があります。


3)手続き

 口頭試問を通過することができたら、残すは申請の手続きです。

 さまざまな申請書類や要旨の提出、リポジトリ登録の手続き(事例の載っている博士論文のほとんどは、リポジトリに登録するものの要約のみの公開になっていると思いますが)などです。


 このあたり、主査の先生にはいろいろな面でお世話になりました。きっと主査の先生は主査の先生で、私の博士論文のためにさまざまな書類を作ったり、評価のための文書を作成されたりしたのだと思います。


 論文を含めた申請書類一式が揃って、最終提出です。

 で、終わりではなく(苦笑)。それらの申請が各部署の教授会を通って、最終的に理事会の承認まで得る必要があります。最後まで安心できません。

 教授会や理事会は開催の時期もあるので、通過するのにわりと時間がかかります。私の場合は、この手順のお知らせに大学側の見通しの違いがあって、理事会を通るのが遅くなってしまったのですが、主査の先生が(少しでも早く博士号が授与されることが私の仕事にとって大事だと判断してくださって)そのときにものすごい勢いで本部に掛け合ってくださって(もちろんどうしようもなかったのですが)、そこまでして下さったことにも恩を感じてます。


 やれやれ。


 こう見てみると、書き終わった後もさまざまな作業があったことがわかります。それくらい重大なことなんだなあ、と。こういった作業は、論文を書くことに比べると自分にとってすごく苦手なことなのですが、「もう一踏ん張りだ」と自分に言い聞かせて、なんとかやりとげました…。


 そして、この申請が終わってようやく博士号が授与されるということになります。

 それはまた今度。


 このシリーズも次が最後になります。

 最後は、学位としての博士号を取得したことが自分に与えた影響といったことをまとめてみたいと思います。


Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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