臨床心理学で博士論文を書くということ(その4)
今、「臨床心理学で博士論文を書くということ」について連続して書いています。
前回「博士論文を書いている最中のこと」について具体的なことを書きましたので、今回は若干精神論的なこと(笑)を書いてみたいと思います。
以前のブログから繰り返し述べてきましたが、博士論文は「書くまでが大事」です。書き始めることができれば(粘り強ささえあれば)書き終えることはできる。というのが私の見解です。
書き始める段階で全体のプロセスの7割は終わっているような気がします。
とはいえ、長い道のりです。
ですので、「書いている最中」で大事なことは「書き続けること」、表現を変えると「足を止めないこと」が非常に大事になってきます。しかし、どうしてもさまざな理由で「足が止まって」しまうことがあります。
博士論文については、この「足が止まった」後、そのままになって書けなくなった人がかなり見られるように思います。
「足を止めないこと」
このようにえらそうに言っていますが、私自身、二度ほど「足を止めた」ことがあります。
わが家は長女がかなり早産で、またいろいろな問題を抱えて生まれてきました。その頃私は京都に住んでいまして、生まれてから7ヶ月、毎日京都府立医大病院のNICUに通いました。入院中に大きな手術もしました。10月に生まれたので、そこからクリスマスもお正月もすべてNICUの病室で過ごしました。博士論文を書くようにというお話はすでに恩師からあったのですが、とても取り掛かれる状態ではありませんでした。
子どもが退院し、少し落ち着いた後、私はこれまで書いてきた論文をまとめながらようやく博士論文に取り掛かかり始めました。しかし、その後、長女に小児がんが見つかりました。私はそこで論文を書く作業を一旦止めました。長女は髪の毛もすべて抜け、お腹に大きな傷の残る大手術をしましたが、本当にありがたいことにがんは治癒の方向へ進みました。また1年ほど経っていました。
そこで私は、もう一度博士論文に取りかかろうとしました。今度こそと思いました。ところが、その小児がんがようやく治ってまもなく、長女はまったく別の脳症という病気にかかってしまいました。そして重い後遺症を得ることになりました。私は論文を書くのを止め、文字通り心をしっかり閉じました。博士論文なんか書いても意味がないと思いました。
博士論文に着手するという時からすでに数年が経っていましたので、ここで立ち消えてもおかしくなかったと思います。精神も相当荒んでいましたし、書くことに意味も見出せなくなっていました。しかし、幸運なことに、その後(かなり時間は必要でしたが)自分は博士論文をもう一度書き始めていました。きっかけは何だったか思い出せません。
おそらく恩師や主査の先生が「書けるようになったら再開したらよい」と待ってくださったということがあったと思います。もう一つは、子どもの状態がようやく落ち着いてきた頃、少し冷静になって、自分がこの子たちを育てていくために博士論文を書くということが何か役に立つのじゃないか(例えばお給料に反映されたりすることがあるのじゃないか(苦笑))という現実的な目論見が生じていたのかもしれません。
個人的なことばかり述べてほとんどの人には役に立たないかもしれませんが、「続ければいつか書ける」ということの一つの例証になっていればと思います。
さて、では「どうやったら書き続けられるか」ということですが、やはり1日10分でもよいので自分の書いている博士論文に触れることです。手を止めてしまうと、次がなかなか動かなくなってしまいます。とにかく短い時間でも毎日触れることが大切です。
10分くらい作るのは簡単じゃないかと言われるかもしれませんが、仕事をしていたら or 子育てをしていたら、そうではないですよね(笑)。10分書く時間も作ることができない。書ける態勢が整っていても、その時間が作れない。これは辛かったです。時間のある人をほんとにうらやましく思いました。
しかも困ったことに、論文というのは10分あれば続きを書くことができるというものではないのです。10分書くための、そのモードに入るために(集中するために)1時間くらいかかる。すなわち、一人になって論文を少し前から読み直して、少しずつ深く潜っていって、ある程度の深さに身体が慣れたときにはじめて続きを書くことができる。少なくとも自分はそうでした。
その時間をどう捻出するか。思うに、静かな環境やきれいな机に向かって、みたいな整った状態を目指さないことだと思います。
私の場合、子どもの世話をしながら、立ったまま自分の文章を読んで、ある程度自分の文章の中に入れたら、そのままトイレや風呂で1枚でも2枚でも推敲を続けました。そこ以外に自分が一人になれる場所と時間がなかったので。よく書けたと思います。当時は毎日「クソ、クソ」と言いながら書いていました(笑)。
とにかくいったん書き始めるところまで行けば、あとは「書き続けてさえいれば、いつかは書き終えることができる」
何のアドバイスにもなっていませんがー。
私はまったく頭がよくなく、なんら特別な才能もないのですが、ただ続ける力だけは与えられていたようで、そのことに感謝しています。(他の才能もあれば、もっとずいぶん早くに書けたのかもしれませんが(苦笑))
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