日本箱庭療法学会参加記(2022年10月)


 日本箱庭療法学会第35回大会に参加してきました。

 今年の箱庭療法学会は徳島県の鳴門教育大学で開催されました。ここ数年はコロナで中止になったり、オンラインになったりしましたが、今年は久しぶりに対面型で開催されました。やはり対面の学会はよいですね。(運営の皆様、いろいろ大変だったと思いますが、ありがとうございました。)


 いろいろな方の研究発表を聞き、久しぶりに自身の研究発表もしてきました。よい学びの機会になりました。


 一日目はメインはシンポジウム。今年のシンポジウムは特に期待はしていなかったのですが、実際聞いてみると大変興味深いものでした。テーマは「私たちにとって『リアリティ』とは何か?」というものですが、基調講演に関西大学の溝井先生をお招きして、水族館成り立ちの歴史や水族館の展示デザインの変化についてのお話がなされました。

 一見テーマとのつながりが「?」という感じなのですが、聞けば聞くほど箱庭療法とのつながりを考えさせられるお話でした。


 水の中の世界はある意味では人にとって「異界」です。ゆえに水族館は「本来見えないものをいかに見るか」というテーマに取り組む工夫の歴史でもあったのです。単なる自然を模写した展示ではない。水族館はたしかに実際の生き物を使って水中を表現しているのですが、それは決して「本物そのもの」ではありません。しかし、溝井先生によると、その展示の仕方を通して、「本物以上に本物を感じる」ということを目指しているということ。たしかに、実際の海の方が本物だと言って、水中メガネで海の中をのぞいてもあまり楽しくないですものね。

 これはわれわれが箱庭療法で表現されたことに心的なリアリティを見ていることとつながっているように思われます。

 また、水族館は照明や水槽のガラス素材の進歩、あるいは順路の工夫などによって、より「没入感」 が得られるように発展しているようです。もっと言うと「没入しながらも観察するあり方」です。加えて、近年はタッチプールなどにより「相互性(インタラクティブ性)」を追求するようになっているというお話もありました。いずれも箱庭療法の利点と近いように思われました。


 (「そのもの」をそこに出すだけでは不十分な事象について)いかにリアリティを取り出し、インタラクティブに受け止めていくか、それはまさに箱庭療法の治療機序そのものでもあるように感じられました。


 こうやって心理学でない研究者や専門家を呼んで箱庭療法とのつながりを考えるというのは非常に意義深いことであり、よいテーマ選択とよい切り口のシンポジウムだと思いました。

(そんな難しいことはおいておいても、わが家は大の水族館好きなので今回のお話は面白かったです!)




 二日目は自身の研究発表でした。

 『ツクヨミとしての木戸孝允−「中空構造」理解のための一試論−』というテーマで発表しました。

 何言っているかわからないですよね(苦笑)。


 わが国の神話は西洋の神話のように主神がすべてを束ねる統合モデルではなく、主神に見えるアマテラスだけでなく、それに対立するスサノヲがおり、常に両者を行き来しながら物語が展開するということはよく知られています。河合先生は、特に重要な特徴として、アマテラスとスサノヲの間にほとんど語られないツクヨミという弟神がいて、実はこの無為の中心(中空)であるツクヨミを含めた三者関係(トライアッド)としてバランスを取っているのだということを見出しました。この一対の対立者と中心の「空」という「中空構造」論は、神話だけでなく、わが国の社会構造や個人の心のありようを考えるうえでも有用なフレームとして広く注目を集めました。


 私は、「中空構造」論は現代人の抱える無力感やうつなどの精神病理的理解、「解離」への注目、各所で見られる「分断」の問題など、まさに今という時代にあらためて必要な視点なのではないかと信じるものですが、しかし、河合先生のいくつかの著作の後に不思議と展開しなかったのを残念に思っていました。


 そこで今回、木戸孝允を一種の中空と見立て、西郷隆盛、大久保利通と合わせてトライアッドとして見ながら明治維新という変革期を検証することで、日本人の心性をあぶり出すことができるだけでなく、もう一 度「中空構造」論に魅力的な光を当て直すことができるのではないかと考えたのでした。


 やはり何言っているかわからないですよね。(ほとんどの人は「ポカン」としていましたが、それもどこ吹く風で)もはやいいんです(笑)。指定討論者の弘中正美先生が興味をもって下さって、「河合先生のやり遂げられなかった仕事を引き継いでやられるということですね」「ぜひ今回の発表で終わらせず、広げて下さい」と言って下さって、この言葉が何よりのご褒美になりました。



 

 最後に、学会と言ったらこういうことですよね。

 「知らない町でいい感じの飲み屋を見つける能力」というほとんど唯一の誇れる才能を発揮して、庶民的なよいお店を見つけて、気持ちよくお酒を飲みました。

    徳島だからすだちサワーを飲みました。お刺身もおいしかったです。

Ueda Lab (心理療法研究室)

とある大学で心理療法の研究と教育をしています。

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